神経科学研究からの機械学習とロボティクスのあらたな技法の発見
神経科学研究は人工知能の技術開発に多くの着想をもたらしてきました。ニューラルネットワークや強化学習はその代表的なものです。脳による認知機能と運動制御は極めて優れたものであり、そこから得られる知見は多大です。神経科学データの解析によって明らかになる脳の内部機構は人工知能やロボティクスにも新たな視点を提供し、ブレークスルーを目指します。
光遺伝学によるリアルタイム脳操作実験系
睡眠ステージ推定システムを利用し、高精細の脳波をリアルタイムで分析する環境を構築を進めています。
閉ループ制御装置と光遺伝学を組み合わせることで、特定の神経細胞集団だけを生きた動物の脳内で活動制御することができます。具体的には特定の睡眠ステージの時にのみ、マウスの脳にレーザーを照射し、光感受性タンパクを通して細胞集団を抑制します。これによって睡眠時のどのような活動が記憶の固定化に必要であるのかを明らかにします。このような知見はアルツハイマー病やレム睡眠行動障害の新たな治療法に繋がる可能性があります。(閉ループ実験系)の構築(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 坂口研究室との共同研究)(公益財団法人G-7奨学財団から支援をいただいています)
睡眠ステージの自動判定
睡眠時に脳の大域的状態が遷移することはヒトのみならず動物でも観察されますが、当研究室ではマウスにおいて1チャネル脳波のみを用い、4秒単位で睡眠ステージをリアルタイム分類するソフトウェアの開発を進めてきました。このシステムは光遺伝学等の介入的操作と組み合わせることで、脳の大域的状態がどのような役割を持つのかを因果的に明らかにすることに使用できます。(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 坂口研究室との共同研究)
Caイメージングからのアンサンブルとモチーフの発見
脳内の情報処理の基本単位として、複数の神経細胞が同期的に活動するアンサンブルやモチーフが注目を集めています。当研究室では生きたマウスの脳から小型顕微鏡で記録されたカルシウムイメージング映像に対して画像処理とパターン認識を行うことで、アンサンブルやモチーフを自動発見するソフトウェアの開発を進めています。(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 坂口研究室との共同研究)(日本医療研究開発機構(AMED)ならびに公益財団法人島津科学技術振興財団から支援をいただいています)
多チャネルスパイク系列上のカーネル
神経細胞間ではほとんどの情報が活動電位(スパイク)によって伝えられるとされており、脳における情報表現の理解においてスパイク系列の解析は欠かせません。スパイク系列の間に類似度や距離を定義する研究は以前から行われていますが、近年ではより一般的な二変数関数であるカーネルをスパイク系列上で定義する手法が提案されています。これによって機械学習において広く使われているカーネル法がスパイク系列に対して適用できるようになります。当研究室ではこれまで研究されてきた単独のスパイク系列に対するカーネルではなく、多数のスパイク系列(多チャネルスパイク系列)上のカーネルについて研究を行っています。
神経集団ダイナミクスの分析による前頭葉と小脳の連携メカニズムの解明
脳による身体運動の制御メカニズムの研究に取り組んでいます。特に前頭葉と小脳の間でどのような連携が行われているかを明らかにするため、脳深部刺激によって神経細胞の集団的ダイナミクスがどのように変化するかの分析を行っています。(ヘブライ大学ELSC Yifat Prut教授との共同研究)(日本学術振興会 国際共同研究加速基金により支援をいただいています)